ロスベイ霊園の日本人墓地
要旨
カナダBC州ビクトリア市の南端，Ross Bayに面する一角に子ども56名を含む初期日本人移民153名が眠るRoss Bay霊園があります。戦争や災害で多くの墓標が逸散しましたが，1990年代に日本人・日系人有志による「太平洋懸け橋グループ」の手で再建整備され，合同慰霊碑が建立されました。本サイトには名前，享年，逝去日（埋葬日）などを含む埋葬者名簿と，墓標の写真を収録しています。
歴史
まず，1880年代から1920年代にかけてビクトリアに移住してこられた初期日本人移民とその子どもたちが眠る日本人墓地についてご説明します。
カナダへの日本人の移住が本格化したのは1880年代の後半です。当時，バンクーバーはまだ港が整備されておらず，日本からの移住者はビクトリアに上陸しました。日本人移民は主に漁業，林業・製材業，炭坑労働などに従事しましたが，低賃金の過酷な労働，貧困，医療水準の低さなどから若くして亡くなる方も多く，また乳幼児の死亡率も高かったようです。死亡した日本人はビクトリアにあるロスベイ墓地（Ross Bay Cemetery）に埋葬されました。当時は人種的偏見が強く，白人は墓地の中央部に埋葬されましたが，日本人や中国人は海岸に近い南端部に埋葬されました。
1941年に太平洋戦争が起きて日本はカナダの敵対国となりましたが，カナダ国内に居住する日本人移民の中でも特に太平洋岸近郊に居住する人々は，カナダ政府が行った強制移住政策によりカナダの内陸部・東部へ移住させられ，キャンプでの抑留生活を余儀なくされました。ビクトリアに住む日本人移民も全員が移住させられましたので，ロスベイ墓地に埋葬された死者の家族（配偶者，親，子，きょうだい）はビクトリアには誰もいなくなりました。また，強制移住させられた日本人移民は家財すべてが没収されてしまったことから，戦争後もビクトリアに戻ることができませんでした。
死者の墓を守るひとが誰もいなくなり，また海岸沿いの日本人墓地は大波による海岸浸食で多数の墓標や遺骨が流されるなどしたこともあり，初期日本人移民の墓の多くが埋葬された場所も分からなくなるほど荒れ果ててしまいました。
戦争後，ロスベイ墓地の日本人の墓のことは人々から忘れ去られていましたが，1990年代になり新たにビクトリアに移住してきた日本人移民や日系2世がその存在に気づくようになりました。荒れ果てた日本人移民先駆者たちの墓の惨状は見るに忍びないと有志が集まり「懸け橋の会」を設立し，日本人埋葬者の名簿作成と墓標の再建・整備が始まりました。
架け橋の会の方々の献身的努力のおかげで，ほとんどの日本人埋葬者が判明し，当初の埋葬位置に墓標が再建されました。しかし，ロスベイ墓地が保有する埋葬者原簿が英語表記であるため，日本人名を正確に反映していないものもあります。そのため，現在でも埋葬者名や埋葬位置の確認と墓標の再建・整備が行われています。
詳細な分析と考察
カナダ日系移民の歴史とロスベイ霊園に埋葬された日本人移民に関しては，さらに詳しい分析と考察を行っていますので，以下の記事をご一読いただけると幸いです。
埋葬者の名簿と墓標の写真
現在判明している日本人埋葬者の名簿および現存する全墓標の写真（2010年撮影）をアップロードいたしましたので，関心のある方はどうぞご覧ください。特に，皆さまのご先祖やご親類の方々の中に1880年代から1930年代にかけて（明治・大正の頃に）カナダに移民された方がおられる場合は，ぜひとも名簿をご覧いただけると幸いです。名簿には写真番号も記載されていますので，もし名簿の中に縁者あるいはお知り合いの方のお名前がありましたら，写真集にあるその方のお墓の写真をご覧いただき，ご冥福をお祈りいただけると誠にありがたく存じます。
埋葬者名簿および墓標写真アルバム，ならびに「架け橋の会」の関連資料はこちらのページからダウンロードいただけます。
お盆慰霊祭
毎年8月にビクトリア在住の日本人・日系人によるお盆慰霊祭が行われ，日本人移民先駆者の方々の霊を慰めています。現在，お盆慰霊祭はビクトリア日系文化協会（Victoria Nikkei Cultural Society: VNCS）がオーガナイザーとなっていますので，詳細は以下のVNCSのウェブサイトでご確認ください。
Japanese Canadian Community Organization of Victoria
A research-based non-profit society for the highest standards of multiculturalism